ディアジオ、スコッチ・ウイスキー法の改定を模索か?(その1)

ウォールストリートジャーナル(WSJ)が1月24日に酒造大手ディアジオ(Diageo)に関する興味深い報道を行った。

If You’re a Purist About Scotch Whisky You Might Find This Hard to Swallow | The Wall Street Journal

同紙はディアジオに関する複数の機密文書を入手したらしく、これによるとディアジオは極秘裏に社内チームを組織してスコッチ・ウイスキー法の改定の可能性を模索させているらしい。
またディアジオはこの謀略?の一環として、業界団体であるスコッチ・ウイスキー協会(Scotch Whisky Associtation / SWA)に対して2種の新商品の計画の承認を求め、そして拒否されたようだ。
これらの計画の1つはディアジオが所有するテキーラ”Don Julio”の樽を用いた「テキーラバレルフィニッシュ」のウイスキー。
もう1つは既存のスコッチ・ウイスキーのブランド名(ジョニーウォーカーか?)を使った、”Scotch Whisky Infusions”と称するフレーバード・ウイスキーや度数40%未満のウイスキーだという。

一度熟成させたウイスキーを別の樽に移し替えて再度熟成させる、いわゆる「フィニッシュ」と呼ばれる手法は既にスコットランドの多くの蒸溜所で行われており、これには一般的なシェリー樽を始めとして、ワイン樽やラム樽、ブランデー樽など多種多様な樽が使用される。
こういった現状を考えればテキーラバレルフィニッシュだけが問題になるとも思えないのだが、どうやらSWAの考えは違うらしい。

もう1つの”Scotch Whisky Infusions”についてはまず「スコッチ・ウイスキー」の定義を見ておく必要がある。

現在「スコッチ・ウイスキー(Scotch Whisky)」を名乗る為には英国法である”The Scotch Whisky Regulation 2009″(俗にこれをスコッチ・ウイスキー法と言う)中で定められた要件を満たす必要があり、この要件をまとめると以下のようになる。

1. スコットランド内の蒸溜所で
2. 水とモルト(他の全粒の穀物を加えてもよい)を原料に
3. 度数94.8%を上限に蒸溜し
4. 700リットル以下のオーク製の樽を使い
5. スコットランド内で3年以上熟成させ
6. 水とカラメル着色料以外は添加せず
7. 度数40%以上で出荷する

つまり、添加物を加えることになるフレーバード・ウイスキーや、40%を下回る度数は「スコッチ・ウイスキー」としてはレギュレーション違反となるわけだ。
だが、ディアジオの計画はあくまでこれを「既存のスコッチ・ウイスキーのブランド名で」販売する事であり、商品の分類を「スコッチ・ウイスキー」ではなく「リキュール」などとして販売すればそもそもスコッチ・ウイスキー法の適用外のはず。
ならば”Scotch Whisky” Associationにお伺いを立てずともよさそうなものだが、残念ながらそうしたところでSWAに槍玉にあげられるのは目に見えている。
SWAには管轄外の場所にまで口を出した前例があるのだ。

“Scotch Whisky Infusions”のようなフレーバード・ウイスキーはディアジオ独自のアイデアでは無く、大西洋の向こう側、アメリカには以前より存在している。
特に近年になって「レッドスタッグ by ジムビーム」や「ジャックダニエルテネシーハニー」のようなフレーバード・バーボンが相次いで発売されて目覚ましい成功を収めており、さらにこれらの商品はバーボンの新規顧客開拓に大きな役割を果たしている。
スコッチ・メーカーとしてはこれを見過ごす訳にはいかず、2013年にジョン・デュワー&サンズ(John Dewar & Sons)がディアジオに先駆けて「デュワーズ ハイランダー・ハニー」なる商品を発売した。
だが、この商品は分類をEUの基準に沿った「スピリッツ・ドリンク」とし、アメリカ市場のみでの販売であったのにも関わらず、ラベル表面に”Dewar’s Blended Scotch Whisky Infused With Natural Flavors”と印刷されているのに目をつけたSWAから、「これはスコッチ・ウイスキーなんかじゃありません」と判るようにしろと因縁をつけられる異議を唱えられる羽目になった。
(これが原因かは不明だが、ハイランダー・ハニーは現在終売となっている)

WSJやWhisky Advocate誌がディアジオの2商品の却下理由をSWAに問い合わせているが、SWAはいずれにも回答を拒否している。
代わりに一般論として「スコッチ・ウイスキーでは無い物をそうであると消費者がミスリードされる事があってはならない」とコメントしており、ハイランダー・ハニーへの異議とも通じるこの論理が、少なくとも”Scotch Whisky Infusions”の却下理由ということになるのだろう。
だがこれは建前であって、本音は別にあるように思われる。
それは単にSWAがWSJの原記事のタイトルにもあるような純粋主義者(Purist)であり、”Scotch Whisky Infusions”やテキーラバレルフィニッシュが彼らの主義には沿わない物だからではないだろうか。

このご時世、純粋主義とはいささか物騒な単語にも聞こえるが、ウイスキーにおける純粋主義者とは要は「なにも足さない、なにも引かない」のを至上とするような人々の事だ。
加水すら快く思わない彼らにとっては、神聖なるウイスキーに蜂蜜を加えるなど冒涜行為にも等しいというわけだ(当然アメリカにもフレーバード・バーボンをバーボンとは認めない人達がいる)。
また彼らは伝統を変えるのも嫌う。
確かにシェリーを初めとするワイン樽、ラム樽などは19世紀からスコッチ・ウイスキーの貯蔵・輸送に用いられてきた歴史があり、バーボン樽も20世紀前半から熟成に使用されているが、テキーラ樽は違う。
テキーラバレルを拒む理由はつまり「前例が無いから」からなのだろう。
(15世紀に誕生したとされるスコッチ・ウイスキーは元々蜂蜜やハーブなどで味付けしたスピリッツで、樽で熟成させるようになったのは19世紀前半になってからだという事実は無視することにしているらしい)

だがディアジオにも、こういった商品を市場に投入したい理由がある。

昨今の世界的なウイスキーブームを背景にスコッチ・ウイスキーも順調に売り上げを伸ばしてはいるものの、他の主要国(アメリカ、カナダ、アイルランド、日本)のウイスキーの伸びがそれを上回る為、10年前には60%を超えていた世界のウイスキー市場(インドなどで生産されるウイスキーと称するラムは除く)でのスコッチ・ウイスキーのシェアは現在49%にまで落ち込んでいる。
これはスコッチ・メーカー、特にスコッチ・ウイスキーを大黒柱とする巨人・ディアジオにとっては大問題だ。
新規顧客開拓が期待できる”Scotch Whsiky Infusions”のような商品は是が非でもラインナップに加えたいところだろうし、テキーラバレル使用のアイデアも近年の世界的なテキーラ人気と無関係では無いだろう(昨年ディアジオはジョージ・クルーニーが設立したプレミアム・テキーラ”Casamigos”を10億ドルで買収している)。

しかしこういった新商品計画の度に足止めを食らってはシェア回復どころの話では無い。
そこでSWAに横槍を入れる口実を与えぬよう、法を改定してスコッチ・ウイスキーの適用範囲を拡大しておこうという話になるわけだ。
当然ながら法の改定など容易な話では無いが、さらにそれを望むのがディアジオであるとなると、彼らはあるジレンマに直面することになる。

(その2へ続く)

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ディアジオ、スコッチ・ウイスキー法の改定を模索か?(その1)」への2件のフィードバック

  1. ピンバック: ディアジオ、スコッチ・ウイスキー法の改定を模索か?(その2) | Whisky News

  2. ピンバック: スコッチウイスキーのレギュレーション変更 樽の種類を明記へ | Whisky News

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