ディアジオ、スコッチ・ウイスキー法の改定を模索か?(その2)

(その1より続く)

遡ること2003年、ディアジオ有するカーデュ(Cardhu)蒸溜所のシングル・モルトが、主にスペイン市場での人気から原酒不足に陥った。
ディアジオは対応策として、カーデュのモルト原酒に別の傘下蒸溜所であるグレンデュラン(Glendullan)のモルト原酒をブレンドした物を「カーデュ ピュア・モルト」として販売したのだが、これが物議を醸す事になる。
当時「ピュア・モルト(Pure Malt)」という表記に法的な規定は無く、現在の「シングル・モルト(単一の蒸溜所のモルト原酒からなる)」と「ブレンデッド・モルト(複数の蒸溜所のモルト原酒のブレンドによる)」両方の意味に用いられていた。
「カーデュ ピュア・モルト」は品薄になった「カーデュ シングル・モルト」と非常によく似た外観であり(英語版Wikipediaのカーデュ蒸溜所の項に写真有り)、上記のように「シングル・モルト」の意味にもとれる商品名であったため、消費者の混同を故意に狙っているとした批判が集中することになり、最終的にディアジオはこの「対応策」を販売中止にせざるを得なくなる。

そして話はここで終わりとはならない。
「ピュア・モルト」の販売中止だけでは矛を収めるに不十分とした人々がいたのだ。
それはもちろん、SWAだ。

かねてよりスコッチ・ウイスキー法の厳格化を主張していたSWAはこの機会を逃さなかった。
SWAは「ピュア・モルト」事件のような事態の再発防止を旗印に、ピュア・モルト表記の使用禁止とシングル・モルト、ブレンデッド・モルトなどのスコッチ・ウイスキーの分類の定義を盛り込んだ新たなスコッチ・ウイスキー法の制定を議会に働きかける。
そしてこの法案にはその時点ではまだ業界内の自主規制に過ぎなかった様々な項目も含まれており、内容が厳しすぎるといった反対の声もあったものの、2009年、前項でも言及した”The Scotch Whisky Regulation 2009″として制定・施行されることになった。

つまり、ディアジオがその内容を変えたがっている現在のスコッチ・ウイスキー法は、他でもないディアジオの失態がその制定の遠因だということになる。
そのディアジオが公に法の改定を主張すればSWAがどんな反応を示すかは容易に想像がつく。
秘密裏に事を進めつつもSWAの出方を伺っているのにはこういった事情があるわけだ。

今回のWSJの報道でディアジオは計画の修正を迫られるだろう。
だがこれまでの経緯から考えて、これは元々ディアジオにとって分の悪い戦いだ。
ディアジオもSWAと同様、今回の件についての詳細なコメントは出していないが、代わりに発表した声明の中で「SWAと共に伝統と革新のバランスが取れるアイデアを探していきたい」としている。
極秘に法の改定を画策していた企業の言い分としては少々白々しくもあるが、結局のところこれを実行する以外、解決策は無さそうだ。

The Wall Street Journalの原記事
If You’re a Purist About Scotch Whisky You Might Find This Hard to Swallow | The Wall Street Journal
他にこの件を報じた記事は
Is Diageo Trying to Rewrite the Rules of Scotch? | Whisky Advocate
Diageo’s Secret Move to Amend Scotch Rules | Scotchwhisky.com

スコッチ・ウイスキー法の歴史と解説(日本語で読める最良の物です)
スコッチウイスキーと法律-その1 | 稲富博士のスコッチノート
スコッチウイスキーと法律-その2 | 稲富博士のスコッチノート
スコッチウイスキーと法律-その3 | 稲富博士のスコッチノート

Diageo / The Scotch Whisky Association

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