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「グレン」はスコッチ専用ではありません(EU)

先日スコッチ・ウイスキー協会(SWA)が、ドイツのヴァルトホルン蒸溜所(Waldhornbrennerei)が販売するシングル・モルト「グレン・ブーヘンバッハ(Glen Buchenbach)」のブランド名にある「グレン」の使用差し止めを求めてEU司法裁判所へ提訴したとこのサイトでもお伝えしたが、現地時間22日、訴えは無事?却下された。

SWA側の主張は、スコットランドの116ある蒸溜所の内31が「グレン」蒸溜所で、他国のウイスキーがこれを名乗るのはEU法で定められた地理的表示保護制度(例えばパルマハムはイタリア・パルマで、シャンパンはフランス・シャンパーニュで、そしてスコッチ・ウイスキーはスコットランドで生産された物だけが表示できる、などとした制度)に抵触し、消費者の混同を招くといった内容だった。
だが結審前に提出されたEU法務官による意見書では、「グレン」の使用はEU法に抵触するとは言えず、大体「グレン」はアイリッシュ・ウイスキーでもカナディアン・ウイスキーでも使われてるだろ、とされており、概ねこれに従った判決となったようだ。

SWAによる今回の訴えは結局のところ、大半のスコッチに比べて知名度では劣るであろうドイツ製シングル・モルトの宣伝になっただけだと思われる。

Scottish Whisky Suffers EU Court Setback in Battle over Germany’s Glen Buchenbach | The Telegraph

「グレン」使っていいのはスコッチだけ(SWA)

ドイツ・バーデンヴェルテンベルク州ベルクレンに、ヴァルトホルン蒸溜所(Waldhornbrennerei)というクラフト・ディスティラリーがある。
日本ではほとんど知られていないと思われるこの蒸溜所は、ブランデーやジンの他「グレン・ブーヘンバッハ(Glen Buchenbach)」というシングル・モルトも販売しているのだが、このウイスキーの名前を巡って、英スコッチ・ウイスキーの番人を自任するスコッチ・ウイスキー協会(Scotch Whisky Association / SWA)と争う羽目になってしまった。

SWAは「グレン」という言葉はスコットランドのウイスキーにのみに使用が認められるべきであり、ドイツのウイスキーがこれを使用するのはEU法の地理的表示保護制度で守られる「スコッチ・ウイスキー」を侵害しているとして、ヴァルトホルンの「グレン」の使用差し止めを求めて欧州司法裁判所へ提訴した。

グレンリベットグレンフィディックグレンファークラスなど、スコットランドの蒸溜所やウイスキーの名前に良く見られる「グレン(Glen)」は、「谷(英語のValley)」を意味するゲール語”Gleann”を英語表記した物で、主に地名に使用される。
例えば「グレンリベット(Glenlivet)」は「リベットの谷」という意味になる(livetの意味する所は不明)。

ヴァルトホルンによると「グレン・ブーヘンバッハ」は「ブーヘンバッハタール(Buchenbachtal)」からの命名で、「谷」を意味するドイツ語”Tal”を同意の”Glen”に置き換えたものだとしている。
蒸溜所のあるバーデンヴェルテンベルク州には「ブーヘンバッハタール」という名の国立公園があり、ここには”Buchenbach”すなわちブーヘン川が流れている。
つまり「ブーヘンバッハタール」は「ブーヘン川の流れる谷」という意味で、これをゲール語風に言い表したのが「グレン・ブーヘンバッハ」という訳だ。

SWAが主張は恐らく、こういった命名はスコットランドの蒸溜所の模倣で、消費者がスコッチ・ウイスキーと混同しかねない、といったところだろう。

また、SWAが「グレン」を問題としたのはこれが初めてではない。
2007年にカナダ・ノバスコシア州のグラノラ蒸溜所(Glenora Distillery)が手掛けるウイスキー「グレン・ブレトン(Glen Breton)」に、そして2017年にはアメリカ・ノースダコタ州にあるプルーフ・アーティザン蒸溜所(Proof Artisan Distillers)の「グレン・ファーゴ(Glen Fargo)」に対して、今回と同様の訴えをカナダ連邦裁判所と米国特許商標庁へそれぞれ行っており、そして訴えは両国で却下されている。

同じゲール語圏であるアイルランドはもちろん、スコットランドやアイルランドの人々の移民先であったアメリカやカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカには「グレン」のついた地名が数多く見られる。
(特にノバスコシア(Nova Scotia、つまりNew Scotland)州にはその名の通りスコットランドにルーツを持つ住民が多く、「グレン」の付く場所もあちこちにあるのだが、SWAにとってそれはどうでもいい事のようだ)
またこれらの国々は皆ウイスキーに縁深い国々でもあって(日本は例外的だと言える)、当然ながら「グレン」の付いた蒸溜所やウイスキーは他にも存在する。
付け加えて言うと、ドイツには「グレン」の付くウイスキーがまだ他にも存在しているのだが、SWAはこれら全てに訴えを起こすつもりなのだろうか?

いずれにせよ、欧州司法裁判所は今週中に裁定を下すようだ。

2月24日追記
SWAの訴えは却下された。

Scotch Whisky Association Launch Legal Challenge against German Whiskey over ‘Glen’ Name | The Herald
公式サイト: SWA / Waldhornbrennerei