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スコッチウイスキー協会(Scotch Whisky Association)。

スコッチウイスキーのレギュレーション変更 樽の種類を明記へ

日本の「ウイスキー」に比べて、はるかに厳格に定義されている「スコッチ・ウイスキー」だが、業界団体であるスコッチ・ウイスキー協会(SWA)により、この定義に新たな細則が加えられるとScotchwhisky.comが報じている。
新たに明文化されるのは「フィニッシュ」を含む熟成に使用される樽の種類で、以下の内容が追加される。

オーク製の新樽と、ワイン(スティルもしくはフォーティファイド)、ビール、エール、蒸溜酒の熟成にのみ使用されていたオーク製の樽の内のいずれか、もしくはいくつかを使って熟成させること。但し以下の樽は除く。

・石果(ストーンフルーツ、桃やサクランボなどの大きな種のある果物)を原料としたワイン、ビール、エール、蒸溜酒の熟成に使用された物。
・発酵後に果物、糖類、香料を加えたビールもしくはエールの熟成に使用されていた物。
・蒸溜後に果物、糖類、香料を加えた蒸溜酒の熟成に使用されていた物。

また、ワイン、ビール、エール、蒸溜酒の熟成は、それぞれの伝統的な製法の一部として行われたものでなければならない。
いずれの樽を用いたものであっても、完成した製品は、スコッチ・ウイスキーの伝統的な色・味・香りの個性を備えたものでなければならない。

これにより、カルヴァドスカスク、テキーラカスク、焼酎カスクなど広範囲な蒸溜酒の樽の使用が公に認められることになる。
昨年、ディアジオによるテキーラカスクを使用したスコッチ発売の計画をSWAが承認しなかったと報じられていたが、この点ではSWAは折れたということなのだろう。

SWAはこの変更が「スコッチ・ウイスキーの樽の選択に明確性といくらかの柔軟性をもたらす」としている。

New Scotch Rules Aim to Add ‘Flexibility’ | Scotchwhisky.com

上記のようにSWAは今回のレギュレーション変更が「いくらかの柔軟性(Flexibility)をもたらす」ものだとしていますが、これまで樽に関しては「700リットル以下のオーク製の樽を使用する」との規定があったのみで、むしろ選択の幅は狭まったとも捉えられます。
SWAはこれまで上述のディアジオのテキーラカスクのような「変わり種」を、「伝統的ではないから」という曖昧な理由で撥ね付けてきたようですが、これからは規定外の樽については明確な根拠をもって拒否できることになります。
例えば昨年グレン・マレイはサイダー(シードル)カスクで熟成を行った実験的な商品を英国で発売しましたが、今後はサイダーカスクの使用は「スコッチ・ウイスキー」の規定外となり、同様の商品を新たには発売できないものとみられます。
樽の多彩さがもたらす多様性はスコッチの魅力の一つですので、個人的には樽という樽は全部試すぐらいの勢いでやって欲しいのですが・・・サイダーカスク(カルヴァドスはいいのに?)やシャンパーニュカスク、チェリーワインカスクが弾かれる理由がよくわかりません。

また不可解なのが「伝統的な製法の一部としての熟成に使用されていた樽を使え」という項目です。
現在シェリーカスクの大半を占めるシーズニングシェリー樽は「伝統的(50年近く行われているとは思いますが)」なんでしょうか?
シーズニングシェリーダメ、となればスコッチ業界は大混乱に陥りますので(マッカランなんかは売る物無くなるでしょう)、もちろんそんなつもりは無いのでしょうが、ここにだけ随分と「柔軟性」が発揮されているように思われます。

国内で一滴も蒸溜・熟成していなくとも、瓶詰めだけで自国産ウイスキー名乗れる国の人間からすれば、スコットランド内での蒸溜・熟成が義務付けられているというだけで「スコッチ・ウイスキー」は十二分に「スコッチ」なので、SWAの方々には蒸溜所の試みを妨げない方向でお願いしたいところです。

「グレン」はスコッチ専用ではありません(EU)

先日スコッチ・ウイスキー協会(SWA)が、ドイツのヴァルトホルン蒸溜所(Waldhornbrennerei)が販売するシングル・モルト「グレン・ブーヘンバッハ(Glen Buchenbach)」のブランド名にある「グレン」の使用差し止めを求めてEU司法裁判所へ提訴したとこのサイトでもお伝えしたが、現地時間22日、訴えは無事?却下された。

SWA側の主張は、スコットランドの116ある蒸溜所の内31が「グレン」蒸溜所で、他国のウイスキーがこれを名乗るのはEU法で定められた地理的表示保護制度(例えばパルマハムはイタリア・パルマで、シャンパンはフランス・シャンパーニュで、そしてスコッチ・ウイスキーはスコットランドで生産された物だけが表示できる、などとした制度)に抵触し、消費者の混同を招くといった内容だった。
だが結審前に提出されたEU法務官による意見書では、「グレン」の使用はEU法に抵触するとは言えず、大体「グレン」はアイリッシュ・ウイスキーでもカナディアン・ウイスキーでも使われてるだろ、とされており、概ねこれに従った判決となったようだ。

SWAによる今回の訴えは結局のところ、大半のスコッチに比べて知名度では劣るであろうドイツ製シングル・モルトの宣伝になっただけだと思われる。

Scottish Whisky Suffers EU Court Setback in Battle over Germany’s Glen Buchenbach | The Telegraph

「グレン」使っていいのはスコッチだけ(SWA)

ドイツ・バーデンヴェルテンベルク州ベルクレンに、ヴァルトホルン蒸溜所(Waldhornbrennerei)というクラフト・ディスティラリーがある。
日本ではほとんど知られていないと思われるこの蒸溜所は、ブランデーやジンの他「グレン・ブーヘンバッハ(Glen Buchenbach)」というシングル・モルトも販売しているのだが、このウイスキーの名前を巡って、英スコッチ・ウイスキーの番人を自任するスコッチ・ウイスキー協会(Scotch Whisky Association / SWA)と争う羽目になってしまった。

SWAは「グレン」という言葉はスコットランドのウイスキーにのみに使用が認められるべきであり、ドイツのウイスキーがこれを使用するのはEU法の地理的表示保護制度で守られる「スコッチ・ウイスキー」を侵害しているとして、ヴァルトホルンの「グレン」の使用差し止めを求めて欧州司法裁判所へ提訴した。

グレンリベットグレンフィディックグレンファークラスなど、スコットランドの蒸溜所やウイスキーの名前に良く見られる「グレン(Glen)」は、「谷(英語のValley)」を意味するゲール語”Gleann”を英語表記した物で、主に地名に使用される。
例えば「グレンリベット(Glenlivet)」は「リベットの谷」という意味になる(livetの意味する所は不明)。

ヴァルトホルンによると「グレン・ブーヘンバッハ」は「ブーヘンバッハタール(Buchenbachtal)」からの命名で、「谷」を意味するドイツ語”Tal”を同意の”Glen”に置き換えたものだとしている。
蒸溜所のあるバーデンヴェルテンベルク州には「ブーヘンバッハタール」という名の国立公園があり、ここには”Buchenbach”すなわちブーヘン川が流れている。
つまり「ブーヘンバッハタール」は「ブーヘン川の流れる谷」という意味で、これをゲール語風に言い表したのが「グレン・ブーヘンバッハ」という訳だ。

SWAが主張は恐らく、こういった命名はスコットランドの蒸溜所の模倣で、消費者がスコッチ・ウイスキーと混同しかねない、といったところだろう。

また、SWAが「グレン」を問題としたのはこれが初めてではない。
2007年にカナダ・ノバスコシア州のグラノラ蒸溜所(Glenora Distillery)が手掛けるウイスキー「グレン・ブレトン(Glen Breton)」に、そして2017年にはアメリカ・ノースダコタ州にあるプルーフ・アーティザン蒸溜所(Proof Artisan Distillers)の「グレン・ファーゴ(Glen Fargo)」に対して、今回と同様の訴えをカナダ連邦裁判所と米国特許商標庁へそれぞれ行っており、そして訴えは両国で却下されている。

同じゲール語圏であるアイルランドはもちろん、スコットランドやアイルランドの人々の移民先であったアメリカやカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカには「グレン」のついた地名が数多く見られる。
(特にノバスコシア(Nova Scotia、つまりNew Scotland)州にはその名の通りスコットランドにルーツを持つ住民が多く、「グレン」の付く場所もあちこちにあるのだが、SWAにとってそれはどうでもいい事のようだ)
またこれらの国々は皆ウイスキーに縁深い国々でもあって(日本は例外的だと言える)、当然ながら「グレン」の付いた蒸溜所やウイスキーは他にも存在する。
付け加えて言うと、ドイツには「グレン」の付くウイスキーがまだ他にも存在しているのだが、SWAはこれら全てに訴えを起こすつもりなのだろうか?

いずれにせよ、欧州司法裁判所は今週中に裁定を下すようだ。

2月24日追記
SWAの訴えは却下された。

Scotch Whisky Association Launch Legal Challenge against German Whiskey over ‘Glen’ Name | The Herald
公式サイト: SWA / Waldhornbrennerei

ディアジオ、スコッチ・ウイスキー法の改定を模索か?(その2)

(その1より続く)

遡ること2003年、ディアジオ有するカーデュ(Cardhu)蒸溜所のシングル・モルトが、主にスペイン市場での人気から原酒不足に陥った。
ディアジオは対応策として、カーデュのモルト原酒に別の傘下蒸溜所であるグレンデュラン(Glendullan)のモルト原酒をブレンドした物を「カーデュ ピュア・モルト」として販売したのだが、これが物議を醸す事になる。
当時「ピュア・モルト(Pure Malt)」という表記に法的な規定は無く、現在の「シングル・モルト(単一の蒸溜所のモルト原酒からなる)」と「ブレンデッド・モルト(複数の蒸溜所のモルト原酒のブレンドによる)」両方の意味に用いられていた。
「カーデュ ピュア・モルト」は品薄になった「カーデュ シングル・モルト」と非常によく似た外観であり(英語版Wikipediaのカーデュ蒸溜所の項に写真有り)、上記のように「シングル・モルト」の意味にもとれる商品名であったため、消費者の混同を故意に狙っているとした批判が集中することになり、最終的にディアジオはこの「対応策」を販売中止にせざるを得なくなる。

そして話はここで終わりとはならない。
「ピュア・モルト」の販売中止だけでは矛を収めるに不十分とした人々がいたのだ。
それはもちろん、SWAだ。

かねてよりスコッチ・ウイスキー法の厳格化を主張していたSWAはこの機会を逃さなかった。
SWAは「ピュア・モルト」事件のような事態の再発防止を旗印に、ピュア・モルト表記の使用禁止とシングル・モルト、ブレンデッド・モルトなどのスコッチ・ウイスキーの分類の定義を盛り込んだ新たなスコッチ・ウイスキー法の制定を議会に働きかける。
そしてこの法案にはその時点ではまだ業界内の自主規制に過ぎなかった様々な項目も含まれており、内容が厳しすぎるといった反対の声もあったものの、2009年、前項でも言及した”The Scotch Whisky Regulation 2009″として制定・施行されることになった。

つまり、ディアジオがその内容を変えたがっている現在のスコッチ・ウイスキー法は、他でもないディアジオの失態がその制定の遠因だということになる。
そのディアジオが公に法の改定を主張すればSWAがどんな反応を示すかは容易に想像がつく。
秘密裏に事を進めつつもSWAの出方を伺っているのにはこういった事情があるわけだ。

今回のWSJの報道でディアジオは計画の修正を迫られるだろう。
だがこれまでの経緯から考えて、これは元々ディアジオにとって分の悪い戦いだ。
ディアジオもSWAと同様、今回の件についての詳細なコメントは出していないが、代わりに発表した声明の中で「SWAと共に伝統と革新のバランスが取れるアイデアを探していきたい」としている。
極秘に法の改定を画策していた企業の言い分としては少々白々しくもあるが、結局のところこれを実行する以外、解決策は無さそうだ。

The Wall Street Journalの原記事
If You’re a Purist About Scotch Whisky You Might Find This Hard to Swallow | The Wall Street Journal
他にこの件を報じた記事は
Is Diageo Trying to Rewrite the Rules of Scotch? | Whisky Advocate
Diageo’s Secret Move to Amend Scotch Rules | Scotchwhisky.com

スコッチ・ウイスキー法の歴史と解説(日本語で読める最良の物です)
スコッチウイスキーと法律-その1 | 稲富博士のスコッチノート
スコッチウイスキーと法律-その2 | 稲富博士のスコッチノート
スコッチウイスキーと法律-その3 | 稲富博士のスコッチノート

Diageo / The Scotch Whisky Association

ディアジオ、スコッチ・ウイスキー法の改定を模索か?(その1)

ウォールストリートジャーナル(WSJ)が1月24日に酒造大手ディアジオ(Diageo)に関する興味深い報道を行った。

If You’re a Purist About Scotch Whisky You Might Find This Hard to Swallow | The Wall Street Journal

同紙はディアジオに関する複数の機密文書を入手したらしく、これによるとディアジオは極秘裏に社内チームを組織してスコッチ・ウイスキー法の改定の可能性を模索させているらしい。
またディアジオはこの謀略?の一環として、業界団体であるスコッチ・ウイスキー協会(Scotch Whisky Associtation / SWA)に対して2種の新商品の計画の承認を求め、そして拒否されたようだ。
これらの計画の1つはディアジオが所有するテキーラ”Don Julio”の樽を用いた「テキーラバレルフィニッシュ」のウイスキー。
もう1つは既存のスコッチ・ウイスキーのブランド名(ジョニーウォーカーか?)を使った、”Scotch Whisky Infusions”と称するフレーバード・ウイスキーや度数40%未満のウイスキーだという。

一度熟成させたウイスキーを別の樽に移し替えて再度熟成させる、いわゆる「フィニッシュ」と呼ばれる手法は既にスコットランドの多くの蒸溜所で行われており、これには一般的なシェリー樽を始めとして、ワイン樽やラム樽、ブランデー樽など多種多様な樽が使用される。
こういった現状を考えればテキーラバレルフィニッシュだけが問題になるとも思えないのだが、どうやらSWAの考えは違うらしい。

もう1つの”Scotch Whisky Infusions”についてはまず「スコッチ・ウイスキー」の定義を見ておく必要がある。

現在「スコッチ・ウイスキー(Scotch Whisky)」を名乗る為には英国法である”The Scotch Whisky Regulation 2009″(俗にこれをスコッチ・ウイスキー法と言う)中で定められた要件を満たす必要があり、この要件をまとめると以下のようになる。

1. スコットランド内の蒸溜所で
2. 水とモルト(他の全粒の穀物を加えてもよい)を原料に
3. 度数94.8%を上限に蒸溜し
4. 700リットル以下のオーク製の樽を使い
5. スコットランド内で3年以上熟成させ
6. 水とカラメル着色料以外は添加せず
7. 度数40%以上で出荷する

つまり、添加物を加えることになるフレーバード・ウイスキーや、40%を下回る度数は「スコッチ・ウイスキー」としてはレギュレーション違反となるわけだ。
だが、ディアジオの計画はあくまでこれを「既存のスコッチ・ウイスキーのブランド名で」販売する事であり、商品の分類を「スコッチ・ウイスキー」ではなく「リキュール」などとして販売すればそもそもスコッチ・ウイスキー法の適用外のはず。
ならば”Scotch Whisky” Associationにお伺いを立てずともよさそうなものだが、残念ながらそうしたところでSWAに槍玉にあげられるのは目に見えている。
SWAには管轄外の場所にまで口を出した前例があるのだ。

“Scotch Whisky Infusions”のようなフレーバード・ウイスキーはディアジオ独自のアイデアでは無く、大西洋の向こう側、アメリカには以前より存在している。
特に近年になって「レッドスタッグ by ジムビーム」や「ジャックダニエルテネシーハニー」のようなフレーバード・バーボンが相次いで発売されて目覚ましい成功を収めており、さらにこれらの商品はバーボンの新規顧客開拓に大きな役割を果たしている。
スコッチ・メーカーとしてはこれを見過ごす訳にはいかず、2013年にジョン・デュワー&サンズ(John Dewar & Sons)がディアジオに先駆けて「デュワーズ ハイランダー・ハニー」なる商品を発売した。
だが、この商品は分類をEUの基準に沿った「スピリッツ・ドリンク」とし、アメリカ市場のみでの販売であったのにも関わらず、ラベル表面に”Dewar’s Blended Scotch Whisky Infused With Natural Flavors”と印刷されているのに目をつけたSWAから、「これはスコッチ・ウイスキーなんかじゃありません」と判るようにしろと因縁をつけられる異議を唱えられる羽目になった。
(これが原因かは不明だが、ハイランダー・ハニーは現在終売となっている)

WSJやWhisky Advocate誌がディアジオの2商品の却下理由をSWAに問い合わせているが、SWAはいずれにも回答を拒否している。
代わりに一般論として「スコッチ・ウイスキーでは無い物をそうであると消費者がミスリードされる事があってはならない」とコメントしており、ハイランダー・ハニーへの異議とも通じるこの論理が、少なくとも”Scotch Whisky Infusions”の却下理由ということになるのだろう。
だがこれは建前であって、本音は別にあるように思われる。
それは単にSWAがWSJの原記事のタイトルにもあるような純粋主義者(Purist)であり、”Scotch Whisky Infusions”やテキーラバレルフィニッシュが彼らの主義には沿わない物だからではないだろうか。

このご時世、純粋主義とはいささか物騒な単語にも聞こえるが、ウイスキーにおける純粋主義者とは要は「なにも足さない、なにも引かない」のを至上とするような人々の事だ。
加水すら快く思わない彼らにとっては、神聖なるウイスキーに蜂蜜を加えるなど冒涜行為にも等しいというわけだ(当然アメリカにもフレーバード・バーボンをバーボンとは認めない人達がいる)。
また彼らは伝統を変えるのも嫌う。
確かにシェリーを初めとするワイン樽、ラム樽などは19世紀からスコッチ・ウイスキーの貯蔵・輸送に用いられてきた歴史があり、バーボン樽も20世紀前半から熟成に使用されているが、テキーラ樽は違う。
テキーラバレルを拒む理由はつまり「前例が無いから」からなのだろう。
(15世紀に誕生したとされるスコッチ・ウイスキーは元々蜂蜜やハーブなどで味付けしたスピリッツで、樽で熟成させるようになったのは19世紀前半になってからだという事実は無視することにしているらしい)

だがディアジオにも、こういった商品を市場に投入したい理由がある。

昨今の世界的なウイスキーブームを背景にスコッチ・ウイスキーも順調に売り上げを伸ばしてはいるものの、他の主要国(アメリカ、カナダ、アイルランド、日本)のウイスキーの伸びがそれを上回る為、10年前には60%を超えていた世界のウイスキー市場(インドなどで生産されるウイスキーと称するラムは除く)でのスコッチ・ウイスキーのシェアは現在49%にまで落ち込んでいる。
これはスコッチ・メーカー、特にスコッチ・ウイスキーを大黒柱とする巨人・ディアジオにとっては大問題だ。
新規顧客開拓が期待できる”Scotch Whsiky Infusions”のような商品は是が非でもラインナップに加えたいところだろうし、テキーラバレル使用のアイデアも近年の世界的なテキーラ人気と無関係では無いだろう(昨年ディアジオはジョージ・クルーニーが設立したプレミアム・テキーラ”Casamigos”を10億ドルで買収している)。

しかしこういった新商品計画の度に足止めを食らってはシェア回復どころの話では無い。
そこでSWAに横槍を入れる口実を与えぬよう、法を改定してスコッチ・ウイスキーの適用範囲を拡大しておこうという話になるわけだ。
当然ながら法の改定など容易な話では無いが、さらにそれを望むのがディアジオであるとなると、彼らはあるジレンマに直面することになる。

(その2へ続く)

スコッチ・ウイスキーの輸出額、3.4%上昇

英スコッチ・ウイスキー協会 (SWA) の発表によると、2017年前半期のスコッチ・ウイスキーの輸出額は前年比で3.4%上昇し18億ポンド (10月31日現在約2,700億円) に達した。
内訳を地域別に見ると、米国では8.6%上昇し3億8,800万ポンドに、日本では19%の上昇で4,300万ポンド、中国では45%上昇して2,700万ポンド、最大の輸出先であるEUでは4%上昇し5億5,900万ポンドとなっている。
また、同期間におけるシングル・モルトのみの統計では全体の上昇率を大幅に上回る7%の上昇となる一方で、スコッチ・ウイスキー全体の輸出量は2%の下落となっており、消費者の嗜好が世界的に高価格帯化している事がうかがえる。

Value of Scotch Exports Grows in First Half of 2017 | scotch-whisky.org.uk

SWAは先日、英国内でのスコッチ・ウイスキー市場の縮小傾向が明らかになった際には、その原因が増税にあるとして減税の必要性を主張したが、今度は成長輸出産業であるスコッチ・ウイスキーを支援する為に減税が必要であると改めて主張している。
儲かっている所から取ろうとするのは政治家の常。
やぶへびにならないといいのだが。

増税したから売上減ったじゃねーか (英国)

スコッチ・ウイスキー協会 (Scotch Whisky Association / SWA) によると、英国内における2017年前半のスコッチ・ウイスキーの売上は前年同期に比べ2.6%減少。
SWAはこれを今年3月に蒸留酒に対する税率が3.9%引き上げられた影響だと見ている。
SWAは2015年に2%の減税が行われた際、蒸留酒による税収は4%、金額にして1億2400万ポンド上昇、税率が据え置かれた2016年には税収が更に7%・2億2900万ポンド拡大した事実を指摘し、英国の為に今年11月の予算案では減税を行うべきだと主張してる。

Scotch Whisky Sales ‘Hit by Duty Hike’ | scotchwhisky.com

スコッチ・ウイスキーに対する課税の歴史はスコットランドとイングランドの歴史そのものだと言っても過言ではない。
ブレグジット以後スコットランド独立の気運が再び高まる中、税率の影響が税収に対してだけで留まればいいのだが。